「柏木」


「はい」


返事をして、先生がいる教壇に向かう。


無言で数学のテストを突き返され、そのわずかに交わる視線に、特別なものを期待したけど__先生はすぐに次の生徒の名前を呼んだ。


こういう時、少し寂しくなる。


交際がスタートしたものの、先生は学校の中では変わりがない。


生徒から人望があって厳しい、いつもの三井先生だ。


その前夜にキスを交わしたなんて、微塵も感じさせない様子でテストを配り終える。


少しでも喜んでもらおうと、数学だけは頑張った。その甲斐があって、92点とまずまずだ。それなら少しくらい笑ってくれたって__?


ん?


テストの右端になにか書いてある。


『よく頑張ったな』


それはメッセージだった。


私だけに宛てられた、先生のメッセージ。


「智花、何点だった?」


後ろの席から、弥恵が身を乗り出してきたので、慌ててテストを隠す。


いくら1番の親友でも、言うわけにはいかない。


点数だけ答えて、テストは細かく折りたたむ。


先生が字を書いてくれた温もりが伝わってくるようで。


授業を進める先生を、私は微笑みながら見つめていた。