「えっと、智花ちゃん?」


名前を呼ばれたけど、聞こえないフリをする。


それなのに水曜日の彼氏候補は、どたどたと私の前に立ちふさがった。


うわぁ、マジでナイわ。


ゆうに100kgはあろう丸々と太った男は、年もいっているし、薄っすら頭も禿げている。なにも暑くないのに、脂汗で顔が光っていて、とにかく気持ち悪い。


「智花ちゃん、だよね?」


声も甲高くて、なにもかもがあり得ない。


こんなの、罰ゲームじゃないか。


「違います」とだけ吐き捨て、男の脇を通りすぎる。


「ちょっと」


弥恵に腕を引かれたけど、私は振り返らなかった。


絶対に私を見ているはず。


オタクの粘着質な視線を、背中にひしひしと感じる。


「ちょっと、まだ見てるよ、あの人。いいの?」


「いいの、知らない人だし」


「でも、名前を呼んでたじゃん」


「あんな気持ち悪いやつ、知らないって!」


強めに言うと、弥恵もやっと黙った。


日替わり彼氏、1人くらいは『ハズレ』があっても仕方ないのかもしれない。


でもそれにしたって、あれはひどい。


臭かったし、いいとこ半径3メートルまでだな。視界にも入れたくない。


ああ、キモっ。


まぁ、私には拓也と真司くんがいるからいいや。


一刻も早くあんな奴を忘れようと__。