あの頃を思い出しながら、とろとろと廊下を進んでいると、


「四組の藍田さんですよね?」


物柔らかにあたしの名前を呼んだのは、学年で比類ない秀才、藤堂 花(とうどう はな)さんだ。


どくんっとあたしの心臓は大きく跳ね上がった。


彼女はたおやかに歩み寄る。


初めて正面から見た藤堂さんは、さらさらのストレートヘアを胸まで伸ばして片側を耳にかけていて。


華やかというよりは、麗しい。
……水も滴るなんとやら。



ドクドクと心臓が鳴り続けているのは、藤堂さんと自分を比べているから。


負け。負け。負け……。


どこをみたって、負けているのに。
なに比べているんだろ。



「……灰野くんに用事ですか?」


それ以外にないと思ってあたしは言った。


だって、彼女は。