8話「お祈りの時間」



 結婚してからというものの、花霞は忙しく生活していた。
 名字が変わるだけで、こんなにも沢山の手続きをしなければならないのだと知った。けれど、どんな事をしていても「鑑さん」と呼ばれるので、その度に花霞は結婚したという事実を感じられるようになっていた。


 椋と沢山買い出しをして、身の回りの物を揃ってきたため、花霞は毎日の生活がとても過ごしやすくなった。それに、彼はいつも「これ、花霞ちゃん好きかな、と思って。」と、小物やデザートなどを買ってきてくれる。椋が自分をとても大切にしてくれているのがわかって、花霞は嬉しかった。

 思えば、玲との生活では全く違った思い出しかなかった。休みの日は、確かに出掛けてあそびに行っていた。けれど、今流行りの場所や物を食べたり、遊んだりしていた。確かに楽しかったけれど、玲は花霞の事よりも自分の楽しさを優先していたのだと気づいた。
 玲は花霞が好きな、花や植物が嫌いだった。面倒だし、見ていて何が楽しいのかわからないといつも言っており、花屋の仕事も「何が楽しいの?」と聞いてくるぐらいだった。1度、植物園に行きたいとデートを提案したこともあったけれど、「嫌だ。」と、言われてから彼に何かを求めるのは止めてしまった。

 比べるのはよくないかもしれないが、椋は逆に「花霞の好きなものを知りたい。」と、言ってくれた。
 自分で調べては「ここの花畑が見頃みたいだよ。」とか、「植物園には行ったことある?」など聞いて来てくれ、休みの日に連れていってくれる。そして、花霞と共に楽しんでくれるのだ。「楽しいね。」「新しい事が知れて嬉しいよ。」などと、言ってくれるのが、花霞は嬉しかった。