自分の感情と葛藤しているうちに、椋は全く周りが見えなくなっていった。檜山という男だけを殺す事だけで、頭がいっぱいになっていたのだ。
 それは、その男が現れた瞬間に顕著になった。


 「檜山…………やっと、やっと………見つけた。」


 椋は檜山が乗車している車を見つけるとすぐに車を降りた。そして、1度はラベンダー畑の方まで行き、男が車から降りるのを待った。

 彼らがこの場所を選んでいたのは、程よい混雑があるが、駐車場などの広さもある所ためかもしれない。あとは、この香りだろう。麻薬を取り扱うため、匂いに敏感になっているのかもしれない。けれど、ラベンダーの香りが立ち込めるこの場所ならば、気にならなくなると思ったのかもしれない。
 だが、椋にとってもここは絶好の奇襲場所でもあった。


 そんな事を考えていると、檜山はやっとの事で車から出てきて、取引相手と何かをしゃべっている。

 椋はギュッと拳銃を握りしめて、ゆっくりと彼らに近づいた。

 
 失敗する訳にはいかない。
 遥斗のために、檜山だけは殺さなければいけない。
 檜山のボディーガードはパッと、見ただけでも3.4人はいる。かなり厳しい状況だが、あいつだけを殺せばいいだけの話だ。自分の命は、考えるな。

 椋は冷たい拳銃に全てを託して、ゆっくりと檜山に近づいた。


 無惨に殺された遥斗。
 まだ、沢山の人を救いたいと思っていたはずだ。俺なんかよりも、生きていく必要のある奴だと椋はずっと思っていた。
 そんな後輩でもあり、友人でもあり、そして小さなヒーローだった遥斗。


 それを目の前の男に殺された。

 
 遥斗の事を思い出すだけで、目の前がチカチカするぐらいに怒りが沸いてくる。