椋は、復讐のために警察を辞め、1人で犯人の事を調べあげ、着々と身元や動きを見てきた。そして、もう少しで相手を殺せるかもしれない、という所で彼女に会ってしまった。
 自分は死ぬだろうと思っていた。
 それなのに、優しさや愛、幸せを求めてしまったのだ。

 数ヵ月の恋ならば、死ぬ前になっても彼女を思い出したりするぐらいに夢中になる事はないと思っていた。結婚生活を体験して、好きになった女を抱ければそれでいいと思っていた。

 けれど、初めて雨の日に花霞と話した瞬間から、「ダメだ。」と思った。きっと、自分は彼女を本気で愛し、夢中になってしまう。今までは、遠くから見ていて気になり、自分のものにしたいと思っていたけれど、会った瞬間に、彼女の魅力にとりつかれた。
 一緒に暮らすうちに「離れたくない。」と、思ってしまった。
 そして、「死にたくない。」と。


 椋にとって、遥斗は誰よりも大切な存在だった。家族より恋人より、仕事より、そして自分より大切だった。
 自分に強いものの理由を教えてくれた。警察という目標をくれた。そして、仲間というものをくれた。
 遥斗に言葉で伝えたことなど恥ずかしくてなかったけれど、椋は彼が1番大切だった。


 それなのに、遥斗は自分の目の前で呆気なく死んでしまった。
 自分を「かっこよくて強いヒーローのようだ!」と慕い、そして「それではダメだ!」と怒ってくれた、大切な後輩であり仲間が死んでしまったのだ。


 「…………守りたかったんだ。」



 椋はその場面を思い出しては、いつもそう思う。椋は遥斗を守りたかった。そして、守れなかった自分がとても情けなくて、悔しくて。
 だからこそ、仇をとりたかった。