『大好きな花霞ちゃんへ


 これを読んでいるって事は、また書斎に入ったんだね。また、約束を守らないなんて、花霞ちゃんにはお仕置きしなきゃいけないね。
 ………もしかしたら、この手紙を見つけた時には俺はいないかもしれない。花霞ちゃんを泣かせてしまうのはすごく悲しいけれど、知っていて欲しいんだ。俺がずっとずっと花霞ちゃんが好きだった事を。


 花霞ちゃんに会ったのは、今の花屋じゃなくて、前の花屋さんで働いていた時だった。警察で潜入捜査をしていて、茶髪にサングラスって姿でよくその花屋の前を歩いてた。誰から見ても声を掛けにくい男なのに、君はいつも「おはようございます。」って、挨拶してくれたよね。もちろん、俺の他にもいろんな人に挨拶しているのも知ってた。それでも、君の笑顔と言葉に毎日癒されてた。そして、花を見つめて愛おしそうに微笑む笑顔にも。そんな表情で俺の事を見てほしいなって………今、思えば一目惚れだったのかもしれない。それから、しばらくして、君がいなくなってしまって寂しかったんだ。

 そんな時、後輩だった遥斗が事件で死んだ。前に話したよね。子どもの頃に俺に説教した年下の男が居たって。警察が1番かっこいいって教えてくれた男が遥斗なんだ。俺は遥斗を殺した奴を追っているんだ。………俺の書斎に忍び込んだ花霞ちゃんは知ってると思うけど。
 俺が遥斗が死んだところに花を手向ければ、俺の正体もバレる危険があった。だから、近くの花屋にお願いしたんだ。そして、遠くからその花屋が来るのを見ていたよ。そしたら、花霞ちゃんが来たから驚いたんだよ。そして、綺麗に掃除までして、花を手向けて、君は祈りまで捧げてくれた。そんな姿を見て、ますます君が好きになったんだ。ありがとう、遥斗の冥福を祈ってくれて。』





 ポロポロと涙が溢れてくる。そこまで読んで、花霞は涙をぬぐった。
 彼がそんな昔から自分を見ていてくれたというのは初めて知った事だった。
 驚きながらも、嬉しいと思ってしまう。
 今でも、椋が好きで仕方がないのだ。


 嗚咽が出てきそうになるのを我慢し、呼吸を整えながら、花霞は続きを読み始めた。