花霞は悔しさのあまりに、床を強く手で叩いた。自分は彼を守れないのか。
 椋を何も知らないまま、彼が遠くに行ってしまうのか。

 花霞は、どうしていいのかわからずに、顔を上げた。すると、目の前には、引き出しがあった。一番下の大きな引き出し。そこには、銃が入っていたはずだった。
 花霞は震える手で、その引き出しに触れた。
 まだ拳銃があるのだろうか。あったとしても、なかったとしても、花霞は怖さを感じてしまうのだ。拳銃を見るのは怖い。けれど、椋が拳銃を持っていったというのも、何故か?と考えると怖くて仕方がないのだ。

 けれど、花霞は引き出しを見る決心をした。
 どちらにしても、受け入れなければいけないのだ。
 ゆっくりと引いていく、とそこには前にあった紙袋はなかった。拳銃は椋が持っていってしまったのだろう。

 フーッと息を吐いて、引き出しを閉めようとした時だった。
 引き出しの奥に、何かあるのに気づいた。
 それを見た瞬間、花霞はドクンッと胸が大きく鳴った。

 そこにあったのは、「花霞ちゃんへ」と書いてある封筒だったのだ。
 花霞は、急いでそれを手にし、彼の字を見つめた。何度も見てきた椋の綺麗な字だった。シンプルな白の封筒。
 花霞は、小刻みに震える手でその封筒を開けた。

 そこには数枚の紙に、びっしりと彼からのメッセージが書かれていた。
 花霞は1度ゆっくりと深呼吸をしてから、椋からの手紙を読み始めた。
 花霞は、その手紙を読みながら彼の声が聞こえてくるようだった。目の前で優しく微笑んでくれているのではないか。そんな錯覚を覚えるほど、彼の手紙の言葉は大好きな椋のままだった。