食欲はなかったけれど、小さなパンをコーヒーで流し込みながら、朝食をとる。
 呆然としながらテレビを見つめていた。
 リビングのテーブルにはあの日のまま、空欄のままの紙が置いてある。

 それを見ると悲しくなると思いながらも、それを片付ける事は花霞には出来なかった。


 「あ、これ………ラベンダー畑だ。」


 テレビに写し出されたのは、週末のレジャー情報だった。ラベンダー畑のラベンダーが見頃なのだろう。
 デートをする予定だった時に、行く場所の1つの案になっていた。


 「ハス園のデート………行きたかったな。」


 次の2人の休みの日に行こうと約束していた事を思い出し、ため息をついてしまう。彼が家から出ていってしまったのだ。デートなど出来るはずもなかった。

 1ヶ月で出ていくように言ったのは、彼の優しさか同情なのかはわからない。
 けれど、花霞はその前に彼と話をするつもりだった。もう1度、椋と話しをしたかった。自分の事、そして椋が何故何かを追いかけて、花霞と結婚したのか。それを知らなければいけないと思っていた。

 それまでは、離婚届に名前を書くことも、彼から離れる事もしたくないと思っていた。

 自分が約束を破った事も悪かったと思っている。謝罪もしたいと思ってる。
 だからこそ、会いたいのだ。


 「はぁー………そろそろ、出勤しないと。」


 花霞はため息を洩らしながら、立ち上がり家を出る準備をした。

 最近は夏らしい日々が続いていた。
 今日も真夏日になるようだったので、花霞は日傘を持って部屋を出た。
 最近は彼から貰った赤い宝石がついた指輪を右手につけていた。勿体なくてつけれなかったけれど、彼が持っているはずの赤の宝石の指輪と、繋いでくれているような気がしていたのだ。仕事中はつけられないので、彼と同じようにネックレスにして身に付けていた。