その声を聞いて、ビクッとしてしまう。
 椋は花霞が書斎に入った事に気づいたのだ。
 窓を閉めてしまったからだろうか。それとも、誰かが部屋に入った時にわかるようにしていたのだろうか。
 それは、花霞にはわからなかったけれど、椋はそれに気づいた。

 
 そして、怒っているのだ。
 それも花霞が想像していた以上に激怒している様子だった。冷静に見えるけれど、彼の鋭い視線と表情がない無の顔が、それを物語っている。

 花霞はすぐに、彼に理由を話した。


 「ご、ごめんなさい………。勝手に入るのはダメだとは思ったんだけど。雨が降ってきて………椋さんの書斎から雨音が聞こえたから、窓を閉めた方がいいと思ったの。」
 「…………だから、部屋に入ったって事?」
 「うん…………。」


 椋は、きっと理由を言えばわかってくれる。
 「そうだったのか。ありがとう。」と言って、優しく微笑んでくれる。そう思っていた。

 けれど、花霞の思い描いた事と、彼の表情は全く違うものだった。