「窓を閉めるだけなら………大丈夫だよね。」


 自分に言い聞かせるようにしながら、花霞は書斎のドアノブに手をかけた。そして、ゆっくりと開ける。
 その部屋は薄暗く微かな外の光りも入っていないようだった。窓を見ると、厚手のカーテンがしてあった。花霞はゆっくりと足を進めて部屋の中に入った。


 すると、その部屋は思った以上に狭い場所だった。テーブルの上には複数のパソコン。その横には本棚があった。
 壁には地図が貼ってあり、それには赤いインクで○や✕があったり、何かのメモも書いてあった。テーブルの上には何やら紙や新聞の切り込みなども沢山あった。
 けれど、それを詳しく見るのは申し訳なく、花霞はすぐに窓を閉めて、その部屋を後にした。
 部屋に入ってみてわかったのは、何ら普通の書斎だという事だった。彼はきっと仕事のためにこの部屋に籠って作業をしているのだろう。事件などのために切り抜きや地図を見ている。花霞はそう思った。
 入るのを拒むのは、何か秘密があるのかと思っていた花霞はホッと胸を撫で下ろした。


 「椋さん……何でこの部屋に入るのを拒んだんだろ?やっぱり……重要な事件だから、情報を守るため、かな?」


 そう考えながら、花霞はパタンとドアを閉めた。ドアを閉めてしまえば、彼もこの部屋に入ったとは思わないだろう。そう考えていた。

 彼の部屋に勝手に入ってしまった罪悪感を感じながらも、花霞は書斎には何の秘密もなかった事に、安心感を感じていたのだった。