それでもなかなか実行に移せなかった。
 やはり恥ずかしい。
 とはいえ金香が望んでいたのはそう大胆なことでもなかった。
 ひとまず望むこととしては手に触れたい、と思う。
 麓乎の手と触れたことは何度もある。けれどこちらから手を伸ばしたことは無い。
 なので自分から手を伸ばしてみたいと思う。そこはやはり変わらずかわいらしすぎるのであった。
 ちなみに麓乎との関係も『かわいらしすぎる』ものであったといえる。
 夜になにか起こるだの、もってのほか。抱きしめる次には、くちづけるところまでしかいっていない。
 しかし金香はそういうものだと思っていた。
 今はただ交際している関係だ。結縁の約束もしていない。
 つまり祝言をあげるまではそのようなことは起こらないだろう。正しい交際であればそうあって、清いお付き合いであって当然。
 そう信じて疑わない金香は、つまりそのようなところは古風なのであった。
 その関係が一歩進んだのはそんな時期であった。