「なかなか良いのではないかな」
 交際するようになってからは初めての添削の日、金香の課題を見た先生はそう言ってくださった。
 金香はちょっと驚く。自分ではあまり自信がなかったもので。
 先生と自分の感性は違うのか、と思ってしまった。
 そのことは金香をちょっと寂しくする。そして金香はこの感情に驚いた。
 そんなことは当たり前ではないか。どうして寂しくなどなるのか。
「……あまり、自信はなかったのですが」
「そうかい? 良い出来だと思うよ。例えばここの表現だけどね……」
 先生の傍で赤鉛筆を入れられていく半紙を覗きこむ。
 いつも通り香の香りがした。金香の胸を高鳴らせる香りだ。
 先生に近付くことや、この香りを感じること。交際前とは違う意味で緊張する。
「今日はこのようなところかな。ところで、そろそろ次の公募に出すものの話を作りはじめてもいいかもしれないね」
 添削のあとはそのような話になった。
 金香は思い出す。
 夏のはじめにそもそものきっかけ、新人賞に作品を提出したことを。
 あれは今、どうなっているのかしら。
 良い評価を貰えていると良いのだけど。
 ちょっと期待が芽生えた。
 そして先生がおっしゃったこと。
 その次のステップだ。
 秋の募集締め切りの賞は夏に出したものより長めの作品が対象だと聞いていた。それであればそろそろ構想くらいは練りはじめないといけないのかもしれない。
「はい。えっと……十一月の末日でしたよね」
 記憶を探って雑誌の公募の頁を思い出す。
「ああ。末日ちょうどに持っていけるとは限らないから、そうだね、二十日くらいには出版社に持っていける状態にしておいたほうがいい」
「わかりました」
「ではまず、構想を聞かせて貰うのは九月の半ばまでにとしよう。あらすじは九月中だ」
「はい」
 そのような打ち合わせ、指導方針を聞かされ、約束し。添削と今後の話はひと段落した。