翌朝、目覚めた金香は布団に寝たまま目を開けただけで、しばらくぼうっとしてしまった。
 昨夜のことは夢だったのではないか、と思う。
 けれど夢などではない。
 先生、今となってはただの師ではなくなってしまったので、麓乎、と呼ぼうか。
 麓乎と恋人関係になってしまったこと。確かな事実である。
 昨夜の出来事を思っただけで急激に恥ずかしくなり、起きるどころかもう一度布団に潜り込んでしまう。顔だけではなく頭まで煮え立ちそうだ。
 抱き込まれて、子供をあやすようにされて、やっと恐怖感がなくなった。
 安心することができた。
 その心のままに、自分の気持ちを口に出してしまった。
 言葉で。声で。
 言いたかったことだ。
 伝えたかったことだ。
 後悔などしていないし、むしろ嬉しく誇らしくも思う。
 ただ、それに羞恥を覚えるのは仕方がない。
 麓乎が金香の抱えていた恐怖感を拭ってくれたのは、優しい以上にきっと立派な大人の男性だからなのであろう。
 触れることで、『想われること』のしあわせを教えてくれたのだから。
 もう怖くなどなかった。恥ずかしくは、あるけれど。
 昨夜、麓乎はあれから少しして帰っていった。
 しばらく体を抱いていてくれたが、そろそろと離された。
 顔をあげた金香に名残り惜しそうに、でも愛おしそうに微笑んでくれた。
「私はそろそろ帰ろう」
「……はい」
 引き留めることなどまったく思い浮かばず、金香は夢見心地でただ頷いた。
「……おやすみ」
 退室する前に頭を撫でてくださったのが最後だった。
 すっと立って、扉を開けて、閉めて、帰ってしまわれた。
 一人になっても金香はしばらくそこへ、ぺたりと座り込んでいた。
 自分の身に起こったことが信じられなかったが、それが現実であるとはわかっていた。
 ただ、あまりに幸せすぎて、すぐに正気には戻れなかっただけだ。