「……すみません」
 激情がおさまったものの、今度は自らの振る舞いに恥じいって違う意味で顔が上げられなくなった。
 再び麓乎の胸にしがみつき、不躾にも顔を埋めてしまった金香だったが、先程と同じように背を撫でられた。
 大きな手で、やわらかく。
 小さな声で謝罪したが、返ってきたのは穏やかな声だった。
 ちっとも迷惑になど思わない。
 そう伝えてくれる、声。
「かまわないよ」
 むしろ愉しげですらあった。愉しげ、というのは少し違うだろうか。
 ただ、今の、誰かと想いを通じさせることが初めてである金香には、はっきりとそれを表現することはできなかった。
「きみの気持ちを聞かせてくれて、とても嬉しかったよ」
 言われた言葉には頬が燃えて、金香はもっと強く麓乎の胸元に顔を押しつけるしかない。
「……恥いります」
「なにを恥ずことがあるんだい。これほど嬉しい言葉はないというのに」
 ぼそっとしか言えなかったというのに、金香のその言葉は優しくくるまれて。
 そしてすべてがあるべき場所へおさまった。
「今ならこたえてくれるかな。……私と交際してくれるかい」
 言われた言葉は同じだったのに。
 今、金香に与えてくれる感情はまるで違っていた。
 あたたかい。
 抱かれている体だけではなく、胸の奥、一番奥が。
 まるで春が落ちてきたようにぬくもりを感じる。
 もう恐怖など無かった。
 金香は心のままに返事をする。
「私などでよろしければ、よろこんで」