翌日は添削に呼ばれてしまったので断れるはずもなく、金香は夕方、先生の自室へ赴いた。
 どうしても目は合わせられなかったのだが。
 とはいえ源清先生がなにか気にした様子はなかった。「いらっしゃい」と迎えてくださり、金香がお渡しした半紙を受け取ってくださり。
 金香はその前にちんまりと正座した。下を向くしかなかったのだが。
 先生が顔を曇らせたのは、金香の提出した半紙をすべて読んでからだった。三日分溜まっていたのに一日ずつ見てくださることなく、すべて読んでしまって、そして言われた。
「どうにも、不調のようだね」
 不出来なのはわかっていた。作品に落ち着かない心が反映されてしまっているのだ。良い作品などできるはずがないではないか。
「体調でも良くないかな」
 しかし先生はこんな不出来な作品を見ても、叱りつけることなどしなかった。
 師によっては「こんなもの」などと怒鳴られても仕方がないものを出してしまった自覚はある。
 ただ、今日は添削をすることなく金香の半紙は先生の文机に置かれてしまった。それが一番の『不評価』なのであったが。
「そのようなことはないのですけど……」
 視線もやれずに金香はそう言うしかない。
 源清先生はちょっと黙った。
 叱られるだろうか。
 違う意味で身が凍ったのだが。
「そうかい。では、単純に停滞期ということかな」
 先生が言ったのはその程度のことであった。
 金香はむしろ拍子抜けした。確かに物書きにとって順調な日ばかりではないだろうけど。
「こういうときはただ机に向かっても、丸めた紙だけが増えてしまうこともあるよ。気分転換をしてみるのも一案だ」
 いえ、先生のせいなのです。
 などとは勿論言えやしない。
 言えないがそれは救いだった。
 気分転換。
 気を紛らわせることをしてみるのも良いかもしれない。
 先生から離れて。
 思ってなんだか寂しくなってしまう。視線も合わせられなくなっているのは自分だというのに。
「課題は少し休みなさい。とりあえず、三日。週が明けたらまた書いて、今度はその日に持っておいで」
 今日はそれだけで帰されてしまった。
 おいとまして金香は、はぁ、とためいきをついてしまう。
 自覚した気持ちに振り回されている。文もまともに書けなくなってしまうくらいに。
 それを先生に知られてしまったことが門下生として一番恥ずべきことであった。