「すみません……お待たせしました」
 視線をあげると、そこには確かに源清先生が居た。金香を見てほっとしたような表情を浮かべてくださった先生が。
「いや、こちらこそ急に押しかけてすまなかったね」
 先生の優しい表情、声、言葉……そのすべてが金香に安心をくれた。
 が、同時に妙に心臓が高鳴ってしまって仕方がない。
 みっともないと思われないかしら。
 でもお逢いできて嬉しい。
 自分の感じる気持ちがたくさんありすぎて、金香はどう表したら良いかわからなかった。
 総合する感情など本来、ひとつしかないのであるが。
 布団をのべたままで恐縮ではあったのだが部屋に入っていただく。
 そこで気付いた。源清先生がなにかを手にしていることに。それは数本まとめられた花だった。
 橙と黄色の華やかな花。
 ガーベラ、とかいっただろうか。西洋からきた花だ。
 座布団に座り、先生はそれを金香に差し出した。
「つまらないものだけど、病床の慰みにでもしておくれ」
「いえ! とても、……綺麗です。よろしいのですか」
 とっさに言ってしまったが源清先生は笑った。ちょっと困ったような笑みだった。
「きみのために持ってきたのだよ」
「あ、……りがとうございます」
 遠慮しすぎたようだ。申し訳なくなりながらそれでも金香は花束を受け取った。
 手にすると良い香りがほのかにする。
 西洋の花。このあたりでは咲いていない。
 どこで手に入れてくださったのだろうか。
 それを訊くのは無粋なので、花束を見つめるしかなかったが。
「具合はいかがかな」
「もう、だいぶ良いです」
「そうか。でも声が枯れているね」
 病状についていくつか訊かれて、そして先生は心配そうな声で言った。
「目元が腫れてしまっているようだけど」
 言われてどきりとした。
 泣いたことに気付かれてしまったようだ。
 風邪を引いただけではなかなか目元まで腫れないのだから。
 風邪で寝込んだだけで涙してしまうなど。子供ではあるまいし。
 情けなさと羞恥に顔が赤くなったかもしれない。