金香ははっとした。目を開けた先には木の天井が見える。
 数秒、なにが起こったのかがわからなかった。
 さっきまで視ていたものはなんだろう。
 体は凍ったように固まっていた。
 天井をただ見つめるうちに金香の意識はだんだん体に戻ってくる。
 これは私の部屋の天井。もう随分馴染んだ、起きたときに見えるもの。
 起きたとき。
 つまり自分は眠っていて。
 つまり夢を見ていて。
 ……すべて夢だったのだ。
 自覚してほっとした。凍り付いた体はすぐにはほどけなかったけれど。
 まず手を動かそうとしてみる。
 指が動いた。
 腕を曲げてみる。思った通りに動く。
 背も向けられなかった夢の中とは違う。
 詰めていたらしい息が、ほう、と零れて、ようやっと体から力が抜けた。布団に体を預ける。
 先程のものは熱が見せた悪い夢。
 やっと理解したけれど非常に恐ろしかった。
 視た夢は示していた。
 金香の胸のうちに、自分の傍から誰も居なくなってしまうのではないかという不安があったことを。
 そんなこと、起こるはずがないのに。居なくなってしまうなどありえないのに。
 けれど夢に視てしまっては落ち着いていられない。
 金香は起き上がって、そして気付いた。
 体を起こしたことでぽろりと頬に流れたもの。
 寝ている間か、夢から目覚めたときか。涙が出ていたらしい。
 恐ろしかった。
 それを噛みしめてしまい、金香は上半身を起こした姿勢で膝を立て、布団越しに顔を埋めた。
 大丈夫、ただの夢。
 ただの夢。
 熱が出たから心細くなっただけ。
 自分に言い聞かせる。それでも不安感はなかなか去らなかった。
 起きて屋敷の誰かに会って、独りではないと感じたい。
 けれどまだそんな気力や勇気は。
 膝を抱えてぼんやりとしていたそのときだ。