また、内弟子としての仕事もはじめた。
 家のこと、掃除や煮炊きなどをするのは下男や下女であったので特に屋敷全体の家事をする必要はなかった。
 が、人様の世話になりっきりになれるような身分ではない。自分のことは自分で片付けるようにした。
 自分の衣服は自分で洗濯する。
 自室は自分で綺麗に整える。
 つまりこのあたりは自宅に住んでいたときとあまり変わりなかったといえる。
 食事だけは自分で作れば二度手間になってしまうのでお任せしていたが。
 しかし寺子屋の仕事が早く終わった日などは厨(くりや)の手伝いをすることが多かった。
 はじめは野菜の洗いや皮むきなどの簡単なところからはじめたが、すぐに馴染んだ厨房担当の飯盛さんや煎田さんは「金香ちゃんはお料理も上手ね」と褒めてくれた。そしてたまには食事のうちの一品などを任せられるようにもなった。
 なんだかお母さんができたようね。
 そう思えて金香はなんだか嬉しかった。
 屋敷での出来事、日常生活から文に関する指導にも少しずつ慣れて、おおむね順調に過ぎていった。
 どれも想像以上に愉しいことだった。
 大勢の人が同じ家屋の中に暮らすのは自分勝手は通らないが、そのぶん協力し合えたりもできる。
 なので金香は愉しい日々に油断していたのかもしれない。
 異変が起きたのはひとつきと少しが経った日のことであった。