「えー? やっぱオンナみたいだぜ。服とかもヒラヒラしてさ」
 しかしほかの子はそう思わなかったらしい。勉強に気が向くかは、もしくはどの科目に気が向くかはやはり人それぞれ。
「こら。そんなこと言わないの」
 妙に、むっとしてしまったのはどうしてか。そんな金香に悪戯っこの一人が声をあげる。
「巴ねーちゃんより美人かもな!」
 その言葉は不本意極まりない。いくら源清先生が綺麗であっても、そしてそれを誰かに褒められれば嬉しくなってしまっても。
 自分よりも美しいと言われてはちょっと不満だ。それは女性としての、年頃の女の子としての矜持である。
「なんですって!」
「わー! 怒ったー! 逃げろー!」
 声をあげた金香に男の子たちは、わーっと大声をあげながら散っていった。追いかけようかと思って、しかし金香はやめておいた。
 水やり当番も一応終わっている。解放してやってもいいだろう。
 このあとは朝一番の勉強の支度をしなければ。今日は数字の学習だ。
 花壇から離れながら、はぁ、と金香は別の意味でためいきをついた。
 こうして男の子たちにからかわれるのは、いつものことだ。半分、教師だというのに威厳が無いことかもしれない。
 でも源清先生が教室に入ってきたときのあの凛とした空気。ああいう雰囲気で子供たちに勉強を教えることができたのならばそれはとても立派なことではないだろうか?
 やはり見習いたい。彼の在り方も子供への勉強の教え方も。
 彼に憧れる気持ちが少しずつ膨らんでいくことを、今の金香はあまり認識していなかった。