「巴ねーちゃん、こっち終わったよー」
 たたっと数人の男の子が駆け寄ってきた。ばけつを持っている。
 威勢よくばけつでまいたのは樹々に水をやったからだ。まだ水も冷たく感じるのに子供たちは今日も元気だ。
「ありがとう。若葉も出てきたね」
「緑の芽がどんどん増えてくよ」
 今日の当番のうち一人の子は植物を育てることがとても好きだった。
 花壇や植物に興味を示すかどうかは子供たちもそれぞれであった。それは個人の興味がどこへ向いているかの問題だ。この子は園芸師や植物学者が向いているのかな、など単純に考える。
「そーいやさー、こないだきた、小説家の先生も褒めてたよ。花壇が綺麗だって」
「え、そうなの」
 行儀悪く袴で濡れた手をこすりながら、違う男の子が言った。
 それを咎める前に言ってしまったのは、きっと嬉しさ。世話をしている花壇を褒めてもらえたことへの。
「あー、あのせんせー。なんかオンナみたいな人だったなー」
 話題は自然に源清先生のことへ移っていく。
 金香はどきどきしてしまった。彼のことを考えると胸が騒ぐ。二人の教室で文の添削をしてもらったときのことを思い出して。
「髪長いし、なんかなよなよしてるし」
 しかし男の子たちの評価は芳しくないらしい。
 それはそうかもしれない。男の子、つまりまだ幼くとも男性なのだ。雄々しい大人に憧れるのはある意味当然ともいえる。
 源清先生は非常に中性的な容姿と仕草だったから男の子の憧れとは離れていても不思議はない。
「でも綺麗なひとだったじゃん」
 言ったのは一人の男の子だった。
 容姿に関して好印象を持った子もいると知り、金香はちょっと嬉しくなった。彼の容姿は金香にとってとても良いものだという初印象だったものだから。
 あまり『男の人』を感じさせないところが良かった、と思ったのだ。
 本人にとってこれが褒め言葉になるかは微妙な線なので先生本人に伝えるつもりはなかったが。源清先生も『男らしい男』になりたいと思っているのであれば、かえって失礼に当たるので。
「それに声だって、優しい声だけど、低くて落ち着いてたし。オトナの男ーって感じで俺は好きだな」
 その子はもうひとつ源清先生を褒めた。なんだか嬉しくなりながらも金香は理由に気付く。
 この子は文を書くのが好きなのだ。源清先生からの指導が嬉しかったのだろう。それが好印象となって表れたという理由もひとつあるかもしれない。