源清先生の添削してくださった子供たちの文をまとめ、明日の支度を軽く整えれば、今日の金香の仕事は終わりだ。
「では、わたくしはこれで失礼いたします」
「はい。巴さん、お疲れ様。お気をつけて帰るのですよ」
「ありがとうございます」
 挨拶をするために教員室へ一度寄り、中へ礼をして金香は退室した。
 このあと校長や教師らで、源清先生を労うための酒の席かなにかがおこなわれるのであろう。
 しかし、同じ教師の領域で働いていようとも、女性であり、また若くもある金香はそこへ入ることはないのだ。まだまだ世は男性が中心で回っている。今日ばかりはそれを残念に思ってしまう。
 教員室の奥。
 客用の長椅子で源清先生が茶を出されて、ほかの教師たちと会話しているのがちらりと見えた。
 帰り際にお姿を見られたことを嬉しく思う。
 今日はとても愉しかった。勉強の時間も書いた文も、添削していただいたことも褒めていただいたことも、全部だけれども一番はやはり『新しいものを書き上げたら見せてほしい』と言っていただけたこと。
一層頑張って書かなければ。帰ったら早速取り組もうと思った。
 そこでやっと、金香は噛みしめる。
 ……つまり、またお会いできるのだ。
 このうえない喜びだと思ってしまい、今日何度目かもわからぬ熱を頬に感じたのであった。