さて、そのような年末年始を過ごして、父親に呼び出されたのは年が明けてしばらくしたときのこと。
年末年始は顔も見られなかったので、きっとそのためだろう。
実家に住んでいる頃からあまり家に居てくれなかったとはいえ、唯一の大切な家族に変わりはない。金香は喜んで実家へ向かったのだが。
迎えてくれたのは父親だけではなかった。
父親に寄り添っていたのは、父親より少し年下に見える女性であった。
「紹介しよう」と名前を言われて、そのひとも「はじめまして」と言ってくれたが、金香は少しの間ぼんやりとしていた。
その間に父親は「これが娘の金香」と金香のことも紹介していたようだ。しかしそれは金香の頭をすり抜けていった。
言われる前からわかった。このひとが父親の後妻になるのだと。
ずっと前から存在だけを感じていたひとなのかはわからない。そのひととは別かもしれない。
それでもこれから父親の伴侶となるひとに変わりはない。
金香がぼんやりしている間にも紹介は進んでいく。
「娘っ子としては珍しいことだが小説家などを志していてね。今は師匠の家に内弟子に出しているんだ」
「そうでしたわね」と女性は言って、それは『以前から聞いていた』というくちぶりであった。
幾つか話をしたあと当たり前のように「このひとを妻として迎えようと思う」と言われてそれが金香の胸に突き刺さった。まるで包丁でも突き立てられたかのようだった。
どうしてかはわからない。
わかっていたじゃないか。
いつかはこんな日が来るのだと。
父親に新しい家族ができるのだと。
金香が家から出ていったことで、その可能性は更に濃くなったわけで、むしろここまでその話が出なかったほうがおかしいくらいですらある。
酷いショック、だったのだと思う。
けれど金香の体は意識とは関係なく「そうなのですね。おめでとうございます」と、にこっと笑って言っていた。
そんな自分に金香は驚き、また悲しくなった。それでもほかに反応などないではないか。
お茶だけ飲んで、金香は「ではそろそろ帰ります」と言った。席を立つ。湯呑みだけ洗おうと持ち上げて。
驚いたように「泊まっていかないのか」と父親に言われたが、「明日も仕事なので」と言った。
「詳しいお話が決まったら、またご連絡くださいませね」と父親に言い、女性にも「ごゆっくりどうぞ」と言って家を出た。
玄関を出て、少し歩いて、金香は立ち止まった。小さなため息をついてしまう。
本当は泊まるつもりで身の回りのものも持ってきていた。
しかし無理だった。紹介された女性と同じ家で一晩過ごそうなど。
そのひとが嫌い、なのではない、と思う。ただ、存在が金香の胸に刺さったということだ。
父親に新しい家族ができた。
でも自分はその中には入れない。
もう家族じゃないのかしら。
そんなことすら頭に浮かんで、屋敷にどうやって帰ってきたかもわからなかった。
気が付いたときには屋敷の前にたどり着いていて、金香はぼんやりと住み慣れた屋敷の屋根を見上げた。
大きな屋敷。たくさんのひとが住まっていて、その全員が知っているひとだ。
ここは確かに、私の家。
けれど、一緒に暮らしているひとは一緒に暮らしている存在であっても、血縁関係のある『家族』ではない。
私はもしかして、独りぼっちになってしまったのでは。
思い浮かんだことに、ぽろっと一粒涙が落ちた。
年末年始は顔も見られなかったので、きっとそのためだろう。
実家に住んでいる頃からあまり家に居てくれなかったとはいえ、唯一の大切な家族に変わりはない。金香は喜んで実家へ向かったのだが。
迎えてくれたのは父親だけではなかった。
父親に寄り添っていたのは、父親より少し年下に見える女性であった。
「紹介しよう」と名前を言われて、そのひとも「はじめまして」と言ってくれたが、金香は少しの間ぼんやりとしていた。
その間に父親は「これが娘の金香」と金香のことも紹介していたようだ。しかしそれは金香の頭をすり抜けていった。
言われる前からわかった。このひとが父親の後妻になるのだと。
ずっと前から存在だけを感じていたひとなのかはわからない。そのひととは別かもしれない。
それでもこれから父親の伴侶となるひとに変わりはない。
金香がぼんやりしている間にも紹介は進んでいく。
「娘っ子としては珍しいことだが小説家などを志していてね。今は師匠の家に内弟子に出しているんだ」
「そうでしたわね」と女性は言って、それは『以前から聞いていた』というくちぶりであった。
幾つか話をしたあと当たり前のように「このひとを妻として迎えようと思う」と言われてそれが金香の胸に突き刺さった。まるで包丁でも突き立てられたかのようだった。
どうしてかはわからない。
わかっていたじゃないか。
いつかはこんな日が来るのだと。
父親に新しい家族ができるのだと。
金香が家から出ていったことで、その可能性は更に濃くなったわけで、むしろここまでその話が出なかったほうがおかしいくらいですらある。
酷いショック、だったのだと思う。
けれど金香の体は意識とは関係なく「そうなのですね。おめでとうございます」と、にこっと笑って言っていた。
そんな自分に金香は驚き、また悲しくなった。それでもほかに反応などないではないか。
お茶だけ飲んで、金香は「ではそろそろ帰ります」と言った。席を立つ。湯呑みだけ洗おうと持ち上げて。
驚いたように「泊まっていかないのか」と父親に言われたが、「明日も仕事なので」と言った。
「詳しいお話が決まったら、またご連絡くださいませね」と父親に言い、女性にも「ごゆっくりどうぞ」と言って家を出た。
玄関を出て、少し歩いて、金香は立ち止まった。小さなため息をついてしまう。
本当は泊まるつもりで身の回りのものも持ってきていた。
しかし無理だった。紹介された女性と同じ家で一晩過ごそうなど。
そのひとが嫌い、なのではない、と思う。ただ、存在が金香の胸に刺さったということだ。
父親に新しい家族ができた。
でも自分はその中には入れない。
もう家族じゃないのかしら。
そんなことすら頭に浮かんで、屋敷にどうやって帰ってきたかもわからなかった。
気が付いたときには屋敷の前にたどり着いていて、金香はぼんやりと住み慣れた屋敷の屋根を見上げた。
大きな屋敷。たくさんのひとが住まっていて、その全員が知っているひとだ。
ここは確かに、私の家。
けれど、一緒に暮らしているひとは一緒に暮らしている存在であっても、血縁関係のある『家族』ではない。
私はもしかして、独りぼっちになってしまったのでは。
思い浮かんだことに、ぽろっと一粒涙が落ちた。