そのとおり、その夜、先生は金香を部屋に呼んでくださった。
「おめでとう。賞は残念だったが、選評はやはりついたろう」
「ありがとうございます。先生のおかげです」
 先生はやはり嬉しそうだった。昼間と同じように笑みを浮かべている。
 金香はもう一度手をついてお辞儀をしてお礼を言う。
 この評価は先生にたくさん見ていただいた結果であったので。
 賞は欲しかったに決まっているが、評価をいただけただけでも上出来なのだ。
「今日は落ち着いて見られないだろうから、私からの再評価は明日以降にしよう。落ち着いていられないのは、私もきみもね」
 先生も落ち着いていられない、と聞いてちょっとおかしくなったが当然だ。
 門下生が良い評価を貰えたのだ。師として嬉しいに決まっている。
「弟子は皆かわいいが、金香は違う意味でも大切な存在だから」
 ふっと、目の前の存在は『師』から『恋人』へと変わった。
 以前はこの遷移にわたわたとしてしまったものだが、今は金香のほうもだいぶ慣れている。
 ちょっと恥ずかしくなったものの、今度は恋人として「ありがとうございます」と言う。
「やはりとても嬉しかったよ。平等にしているつもりでも」
「いえ、先生は平等です。とても」
 公私を混同する人ではないのに、そういうところは謙遜される、と金香は思うのだった。
「そうかな。師としてはそうでありたいね」
 そのあとは「今日はゆっくりお休み」と額にくちづけてくださった。これは先生ではなく麓乎として。それを離されたあと目が合って、物足りなげに見えたからだろうか。
 くすりと笑って「本当におめでとう」と、今度はきちんとくちびるに触れてくれたのであった。