そのあと先生は各自に一冊ずつ雑誌を下さった。
 てっきり一冊を皆で回し読みするのだと思ったのだがそれでは効率が悪いからであろう。
 皆に配るために人数分、雑誌を買ってきてくださったのだ。
 雑誌をいただいて金香は胸を高鳴らせながら震える手で頁を繰った。
 賞の頁は三頁も取られていた。
 新人賞なのだ。それなりに大々的に取り上げられている。
 茅原さんと珠子のものも気になったのだが、それよりどうしても自分のものが気になってしまう。
 ざっと目を通して、選評だけなのだから多分最後のほうだろう、と最後の頁を開く。
 確かに載っていた。
 書いたものの題名と、『巴 金香』と名が載っているのが目に入っただけで心臓が飛び出しそうになった。
『人物の感情表現豊か。主人公の人柄に共感できる。地の文が少々柔らかいので、柔くなりすぎぬよう注意すると良い』
 それだけであった。
 たった、三文。
 が、金香にとっては極上の宝物にも見えた。
 このような、世の中で売られている雑誌に自分の名前が載り、自分の書いたものの評価が載っているのだ。
 何度も、何度も読み返した。
 褒められている。
 そして最後には助言もいただけている。
 なんと勿体ないことか。
 頬が紅潮しただろう。
 そしてそれはきっと金香だけではなかったはずだ。
 賞に入った者、選評がついた者。皆、同じであったはず。
 部屋はしばらく静まり返っていた。皆、読むのに夢中になっていたのだ。
 金香も自分のものを何度も読んだあと、前の頁に戻って茅原さんのものと珠子のものを読んだ。
 流石、賞に入っただけあって、三文などよりもっと多く、長く評価が書いてあった。
 賞に入った小説は題名と筆者のほか、話のあらすじも載っていて、それを読んだだけで金香は作品を読んでみたくなってしまった。
 随分長いこと部屋は静まり返っていたはずだ。先生が「さて、ではこのへんで」と言うまで誰も声を発しなかった。
「今日はこれで解散だ。次は各自に私からの評価をしよう。その日程は、おいおい」
 夢見心地で金香は顔をあげて先生を見た。今は師(せんせい)である麓乎も、とても嬉しそうだった。
「来週、もう一度皆で集まることにしよう。そして作を読み合い、評論会をするよ」
 はい、と全員が答え、それで解散となった。