「ああ。綺麗だろう」
 麓乎も肯定してくれたが、それで終わりではなく。
「でも、金香のほうがもっと綺麗だと私は思うよ」
 さらりと言われて顔が熱くなる。髪につけられたりぼんくらい赤くなったかもしれない。
 「……勿体ないです」
「勿体なくあるものか」
 そう言って今度こそ、すっと顔を近付けられた。
 金香はどきりとして、しかしすぐに目を閉じる。
 以前は思いつきもしなかったが、目を閉じて受けること。もう知っている。
 麓乎との関係が進むたびに幾つものことを知って、それは幸せなものばかりだった。
 今日のこともそのひとつ。
 再び歩き出して金香はふと思い出した。
 やりたかったことがある。自分から麓乎に触れること。
 今ならきっとできる。
 こくんと唾を飲み込んでしまったものの思い切って右手を伸ばす。そっと麓乎の手に触れた。
 麓乎が驚いたようにこちらを見る。
「駄目、ですか」
 流石に恥ずかしかったが、手は引かなかった。
 言う言葉は遠慮がちになってしまったが、その言葉は勿論否定される。
 麓乎はすぐに嬉しそうに、ふっと微笑んだ。
「そんなはずはないだろう」
 そして金香の手を握ってくれる。大きな手に包まれて、ほっとした。
「あたたかいね」
 麓乎がぽつりと言ったのが最後で、そこから屋敷に帰り着くまでずっと言葉はなかった。
 けれどまるで気まずくはなく、むしろ心地よかった。
 あたたかな手が、隣を歩いてくれると感じられることが。
 思ったより、ずっと、ずっと簡単だった。
 もう手の届くところどころではなく、触れて繋げるほどに近いひと。