「せんせー、さようなら」
「ばいばい、巴ねーちゃん」
 今日の勉強を終えて子供たちは口々に挨拶をして散っていった。鞄を抱えてまっすぐ帰ろうとする子、寄り道をするのか何人か集って帰る子らもいる。
 すべての子供が出ていったのを確認して金香は部屋の中へ戻る。
 きっと皆そこにいらっしゃるだろうと教師の集まる教員室へまず向かったのだが、いらしたのは校長先生とほか何名かであった。
「巴さん、子供たちは皆帰りましたか。お疲れ様でした」
 金香が入ってきたことを見てとって校長が声をかけてくれた。金香は「先生こそ、お疲れ様でした」と返事をする。
 しかし不思議に思う。
 客人である、源清先生の姿が見えない。
 出張授業が終わったのだ。ねぎらいの茶などを出されてもてなされていると思ったのだが。
「巴さん。源清先生が呼んでおられましたよ。先生ときたら子供らの文を、書いてすぐのうちに詳しく添削してくださると、教室に残ってしまわれて」
「そうなのですね」
 源清先生を探してしまったのを気づかれてしまったことに恥ずかしくなりながら答える。
 添削は本日求められていた『出張教師』以上の仕事であろうに、そんなことまで進んでしてくださるのか。
 金香は先生の熱心さに心打たれた。
「子らの添削が終わったら、巴さんの文も見てくださるとおっしゃっていましたよ。それにせっかくですから、子らの文の添削の様子も勉強させていただいたらいかがです」
「そ、そうですね。有難く勉強させていただきます」
 校長の言葉は金香にとって嬉しいものだった。
「巴さんからも、よくお礼を申し上げてくださいね」
「勿論です」
 金香は今日の勉強がおこなわれた教室へ向かった。
 口ぶりでは『教室におられるのは源清先生お一人である』というものであったので、緊張を誘ったのだが。