「おい、心晴」
「怪我、お医者さんに診せよう」
「は?」
「大けがだったらたいへんだから」
グイグイ引っ張るが、納得していない千景はおとなしく着いてきてくれない。
「必要ない」
「ダメ」
「おい、」
「バイクだよ?普通に転ぶのとは違うの」
「いや、これくらい・・・」
「これくらい、で済ませたらダメなの」
頑として譲らないわたしに諦めたのか、小さな息を吐く音が聞こえてきた。
「ーーー分かった。その前に、バイクをどうにかさせてくれ」
「あ」
言われて、パッと千景の手を離す。
千景はバイクを起こすと、邪魔にならないようにわたしの家の壁に寄りかからせた。
「これでいいだろ」
「・・・うん」
今度は拒否することなく、千景はわたしの後ろを歩いて着いてきてくれた。
家に戻ると、後藤さんが飯島先生に連絡してくれて、すぐに来てくれると教えてくれた。
「ありがとう、後藤さん」
「いえ・・・客室にお通ししますか?」
「そうね」
ちらちらと千景のことを気にしながら、後藤さんが準備をしてくれる。
「ーーー悪いな」
客室に招いて、ソファに座って貰う。
腰を下ろした千景は、ふう、と息を吐く。
明るい部屋で、彼の足を見てみると、結構キズが深いみたいだった。
「ーーー痛くないの」
「あ?これくらい、どうってことない」
そう言える千景がすごいなって思う。
わたしだったら、痛くて泣いているだろう、そのくらい酷い怪我だ。


