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気がつくと、心晴の家の前にいた。
なんでこの場所にいるか、さっぱり検討もつかなかった。
空を見上げると、今日は満月。
月明かりと外灯が道を仄かに照らしてくれている。
たしか、暇だったから散歩がてら家を出たはずだ。
今日は珍しく誰にも会うことなく、1人の時間を有意義に過ごすことが出来ている。
気ままに歩いていたはずなのに、気がついたら心晴の家の所に来ていた。
偶々、数日前にこの場所で喧嘩をしていたら心晴と出会った。
正直、女なんて種族は嫌悪感があって近寄ることのしてほしくない存在だった。
心晴も例外でなく近づいて欲しくなかったから威嚇して、消えて欲しかった。
しかし、心晴は怯えることなく、俺の側にきてハンカチを渡してくれた。
至近距離だったのにもかかわらず、心晴に対しては嫌悪感なんか感じなかった。
むしろ、まるで空気のように普通の感じだった。
その日を境に、俺はずっとハンカチを持っていて、外に出れば心晴の姿を探していた。
どこを見てもいなくて、学生なのかどうかも分からない。
知っているのは、あの大きな屋敷に住んでいるということだけだ。
きっと、それなりの金持ちの家のお嬢様なのだろう。
2回目に会った時、やはり心晴に対しては普通で、それがおかしかった。
もっと、一緒にいたい、話がしたい。
そんなことを思ってしまった。
そう思っていたからなのか、俺はとうとう心晴の家の前まで来てしまった。
自分の行動に驚きながら、もう時間は遅い、きっと心晴は寝ている時間だろうと諦めていると、家の門が開いて、心晴が顔を覗かせた。
嬉しい。素直にそう思った。


