「え、ここは……?」

目の前には、見慣れない風景が広がっていた。
茶色い葉をつけた木々が立ち並ぶ荒涼とした森……そして、足元を見るとさらに驚いた。

「これって……」

私の前には血まみれの狼が横たわっていたのだ。

(どういうこと? 私、あいつらに襲われて、首を絞められて、そして……)

気が遠くなった後のことが、どうしても思い出せない。
そんな時だった。

「おい、お前! 伏せろぉ!」

「えっ……」

突如かけられた大声に驚き、屈んだ。
そして、目を見張った。

「グルルル……!」

横たわっているのと同じくらいの狼が青い瞳を爛々と光らせ、今にもこちらに飛びかかろうとしていたのだ。
さらにその後ろでは、同じく二匹の狼がジリジリとこちらに近付いてきていた。

私は驚きのあまり、声も出ない。
ただ、腰を抜かしたきり動けなくなった。
その時だった。

「おらぁ!」

私の頭上を棍棒がかすめた。
それは大きく、さらに凄まじいほどの加速度を持った弧を描き、爛々と瞳を光らせていた狼の顔に命中した。

(え……何?)

私は棍棒の主に目をやる。
そして、さらに目を見張った。

そいつが纏っているのは、毛皮の布一枚のみ。
そして、髭も伸び放題に伸びている。
粗雑な身なりの彼はしかし、筋肉の付き方は凄まじく、見れば見るほどに恐ろしいほどの逞しさを醸していた。

棍棒の彼は、その狼を薙ぎ倒してからも容赦しなかった。
腰を抜かして動けない私を他所に、三匹の狼の全てをめった打ちにし始めた。

その惨状は、私には見ていられないほどで。

「やめて……」

気付いたら、私の口からその言葉が漏れていた。

「やめて、もうやめてよ! やり過ぎだって……」

自分の命を狙っていたはずの狼に対する彼の仕打ちが恐ろし過ぎて、私は涙を流しながら懇願した。