「あの、ぼ……僕、初めて見た時から星奈さんのことしか考えられなくて。星奈さんの笑顔のためなら、僕、何でもできます。だから、僕と……付き合って下さい」

放課後の校舎裏。
私は目の前でしどろもどろになる坊ちゃんを前に、溜息が出そうになるのを我慢した。

私は長い睫毛の目を細め、眉を下げて……心から申し訳なさそうに見える表情をする。

「ごめんなさい。白瀬くんの気持ちは凄く嬉しいし、全然、白瀬くんのことが嫌とかそういうんじゃないんだけど……私、今は男子と付き合うとか、そういうことは考えられないの」

「で、でも……お試しに、お友達からなら……」

「そういうのも作る気はないの。本当に、ごめんなさい」

表情とは裏腹のキッパリとした言葉を放った私は踵を返す。
そして、まだ未練たらたら言っている彼には振り向きもせずに立ち去った。

校舎裏から出る私の口をついて、勝手に溜息が漏れる。

こういうの、今年に入ってから何回目だろう?
もうゆうに三十回は超えている気がする。

校舎の表に出た時……

「ヒュー、モテる女は辛いねぇ」

女友達の果代(かよ)が私を茶化す声が聞こえた。

「モテてるんじゃないし。男どもがバカなだけよ」

「だから。そういうのをモテてるって言うのよ」

また例の如く絡んできた。
人が告白される現場を覗き見して茶化してくる、この悪趣味女も相変わらずだ。

「別に、好きでこうなワケじゃないし。私はいつも自然体。自然体でいたら勝手に降りかかってくる火の粉を払っているだけよ」

すっと目を閉じて言う私に、果代は「うわっ、嫌味~」と言って眉をひそめた。

だって、本当に昔からそうなんだ。
特別なことをしているわけでもないし、好かれるようなことをしているわけでもない。
ただ、少し見た目に気をつかってるだけ。

それだけで男子達は清楚だ、星奈さんほどの美人は見たことがない、だのと言って私を自分のものにしようとするのだ。