あの頃は、お父さんもお母さんもいて。お父さんが釣り上げた魚を見せてくれて……キャッキャと喜ぶ私に、お母さんも優しく微笑みかけてくれて。
そして……気がつけば寝てしまっていた私は、お父さんの大きな背中の上で微かに目を覚ましたんだ。

今、思えば……幸せだったなぁ。
幼い頃の記憶は今の私にとっては楽しくて、美しく輝いていて……切ない。

無骨なオリオンの隣で感傷に浸っていた私は、自分の持つ竿に微かな感触を覚えた。

「え……あれ?」

竿を上げようとすると、水中から糸がものすごい力で引っ張られた。

「ちょ……ちょっと、オリオン。かかった!」

「何? 魚がか?」

「魚に決まってるでしょ。力を貸してよ!」

それは、私一人の力では釣り上げられるわけのない大物で……オリオンの怪力をもって揚げられた途端に、水飛沫をバシャバシャと散らし、私達の顔にかけた。

「すごい……凄いぞ! 本当に魚を捕えられた!」

それは、私達の世界でいう鯉のような巨大な魚。その大きさにも肝を抜かれたけれど……
私はオリオンのはしゃぎ方に驚いた。
それは、あの荘厳なイメージとはかけ離れた、まるで子供のようなはしゃぎ方で。