「なぁ、星奈(せな)。お父さんの指の先……白く輝いている、七つのお星様を見上げてごらん」

当時……小学一年生で幼かった私は、父親の言葉通りに、飲み込まれそうなほどに真っ暗な夜空に輝く七つの小さな星を見上げた。

「あれが、オリオン座なんだ」

「オリオン?」

聞き慣れない言葉に不思議そうにする私に、父親はやや憂いを帯びた瞳で頷いた。

「そう。右手に棍棒、左手にライオンの毛皮を持っている、強い猟師なんだ。でも、その強さのためにさそりに刺されて死んでしまったんだ。そして……お星様になった」

「死んでしまったらお星様になるの?」

幼さ故に何も知らなかった私は、その時の父親の言葉に何も違和感も感じずに聞き返した。

「そう。お星様になって、ずっとお空で輝けるんだ。お空で輝いて、ずっと星奈のことを見守っている。でも……お星様になったらもう二度とこっちには降りて来れないし、お母さんにも会えない。だから……星奈は絶対にお星様になろうなんて思ったらいけないよ」

「うん、分かった。降りて来れなくなってしまったら、怖いもん」

父親の言葉に漠然とした怖さを感じた私は素直に頷いた。
そんな私を父親は両手で抱きしめて……言葉にならない涙を流した。

(どうして……お父さん、泣いてるの?)

当時の私には、何も分からなかった。

父親が自身の体を蝕んでいた癌に倒れて……お星様になってもう二度と降りて来れなくなったのは、それから一週間後のことだった。