ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「この世界の夜って、こんなに綺麗だったんだね」

「もとの世界は、そうじゃないの?」

「うん。建物の光はもっと明るくて、星なんて見えなかった。道路には乗り物が走っていて、こんなに静かじゃなかったし」

 私の住んでいた地方都市の夜を思い出す。煌々と明るいショッピングモールで遅くまで働いて、電車に揺られてアパートまで戻る。疲れて、電気をつけたまま寝てしまうことも多かったし、夜を楽しむ余裕なんて良かった。

「もとの世界に戻ったら、こんな景色も見られなくなるんだね」

 ひとりごとのようにぽつりとつぶやくと……。

「だったら、ずっとこっちにいればいいじゃん」

 セピアが、いつもとは違う真剣な声で告げた。

「え」

 私より少しだけ背の高いセピアの横顔を見つめると、緊張した面差しをしていた。

「セピアくん?」

「僕、本気でそう思ってるから。ケイトがこっちにずっといてくれるなら、僕が守ってあげるよ」

「それって」

 私に合わせて歩いてくれていた足を止めて、セピアが私に向き合う。

「ずっと僕たちのお店にいて欲しい。僕の恋人になってよ、ケイト」

「え……」

 びっくりして、セピアを見つめ返す。唇をぎゅっと結んでいるセピアは、いつものふわふわした彼ではなかった。

 セピアの緊張が伝わって、心臓がドキドキする。少し怯えたように、でもしっかりと私の目を見て返事を待つ彼に、どう言葉を返していいのかわからなかった。

「セピアくん、私――」

 ためらいながら口を開いたとき、私たちの背後でガランガランとベルを鳴らしながら扉が開いた。