ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 ワルツを踊るクラレットと、見惚れる観衆。いつの間にかエリザベスさまと婚約者も加わり、踊りの輪はだんだんと大きくなっていった。

「ケイトも、踊りましょ!」

 パートナーを交換しながら進む輪に、エリザベスさまが私の手を引いて連れていく。女性側の踊りはクラレットに教えてもらったけれど、今の私はタキシード姿だ。

「だ、だめですっ。私、男性パートは踊れな……っ」

「いいのいいの、適当で。楽しめればいいのよ」

 ぎこちない踊り方の私を、慣れていない子どもだと思って貴婦人たちがリードしてくれる。これはこれで、悪くなかった。

 クラレットと踊る順番になったとき「ありがとう」という呟きが、音楽に乗って聞こえた気がした。

 このあと仕立て屋スティルハートに、『秘めた緋色』と『明るい湖畔』、そしてなぜか『千枚の葉』の注文が殺到したのは、また別の話――。



「ああ、気持ち良かった。注目を浴びながら踊るのって快感ね~」

 帰りの馬車の中、すっかりいつもの調子を取り戻したクラレットは満足したように長い息を吐いた。

「うん。いろいろ迷惑かけちゃったのに、エリザベスさまも楽しんでくれたみたいだし」

「ちゃんとお礼しないとねえ……」

 なんだか、どっと疲れてしまった。妙な気持ちの昂りのおかげで、いろんなショックが遠くに追いやられたのは良かったけれども。

「それにしてもケイト。あなた、男装に違和感がないわねえ! 貴族のおぼっちゃまに見えるわよ」

「それ、喜んでいいところなの?」

「凹凸のない体型とのっぺりした顔でも、役に立つことがあるのね」

「ひどい」

 つかみかかるふりをした私の手を押さえて、クラレットは表情から笑みを消した。