「お客さまはあくまで、うちの服が好きだから来てくださっているのよ。あなたに会いに来ているんじゃないの。それを勘違いして、自分の力だと思わないことね」

 がん、と頭のうしろを殴られたみたいだった。目の前が一瞬だけ暗くなって、眩暈がした。

 言葉を失ってしまった私を、店長はうっとうしそうに一瞥する。

「早く三十分休憩入っちゃってくれる? あなたが入らないと、次の私が休憩できないのよ」

「はい……」

 ふらふらする足のまま、鞄をつかんでバックヤードから出る。

 店長の言葉がショックだったのは、自分のうぬぼれを正面から突かれたからだった。

 確かに私は、お客さまは自分の接客の力で笑顔にするものだと思っていた。効率重視の店長とは、それでぶつかることも多かったけれど、『お客さまのためを思ってやっている接客が正しい』と信じていた。

 でも結局、お客さまと仲良くなって、親しい話をして、それで自分が慕ってもらっていると思って満足していただけだった。

 お店の服が合わなくなればお客さまは通う店を変えるし、違うお店のスタッフと仲良くなる。そんな光景を、何回も見てきた。見てきたはずなのに、勘違いしていた。

 私は自分が気持ちよくなりたかっただけ。自分の力でお客さまを掴んでいるって、思いたかっただけ。一番に考えていたのはお客さまのことじゃなくて、きっと自分のこと――。

「だから彼氏にも振られるんだ……仕方ないよね……」

 頭の中に、元彼の顔が思い浮かぶ。投げつけられた言葉も、言えなかった言葉も、心の中でくすぶったまま消えてくれない。

 もう、頭がぐちゃぐちゃだ。