ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

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 ホールに降りる階段を、ドレスをまとったクラレットがしずしずと降りていく。七五三の子どもよろしくタキシードを着た私は、クラレットを転ばせないようにエスコートするので精一杯だ。

 ホールのざわめきが一瞬やみ、すべての人の視線がクラレットに向けられた。男性は感嘆のため息を漏らし、女性は嫉妬と称賛のまじった眼差しで息をのむ。

 お化粧道具もメイク落としも借りられたのが良かった。クラレットにメイクはほとんど必要がなかったけれど。

「あの美女は誰だ?」

「なんで子どもがエスコートしている?」

 階下が次第にざわめき始めた。クラレットに対する評価は予想どおりだが、私のほうは少年にしか見えないことに軽く落ち込む。

「クラレット・スティルハートよ。私のドレスを作ってくれたのも、仕立て屋スティルハートなのよ」

 エリザベスさまが少し張った声で、まわりの人にアピールしてくれる。いい宣伝になりそうだ。

 階段を降りた私たちに、まわりの人たちは自然に道をあけてくれた。その先に、見惚れて動けずにいるクラレットの元彼がいた。

「――クラレット」

 夢から醒めたようにはっとして、クラレットの名前を呼ぶ。クラレットはそんな元彼に、優雅に微笑みかけた。

「一曲、踊ってくれませんか?」

「えっ、いや、しかし……」

 元彼はクラレットと今の恋人を順番に見回して困惑していたが、「レディに恥をかかせないで」という恋人からの一言で覚悟を決めたようだ。

「わかりました。お手をどうぞ」

 どぎまぎしながら差し出されたエスコートの手を、クラレットは悠然とした動作で受け入れる。その態度も、表情も、必死で作られたものだというのを私は知っている。

 ――クラレットは女優だ。それも、一流の。

 このホールも、観衆も、クラレットのために作られたステージに見える。そう思っても、今日の主役のエリザベスさまは許してくれるような気がした。