ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 * * *

「クラレット! やっぱりここだった」

 大きな庭に張り出しているバルコニー。そこにひとり、手すりにもたれかかるようにして佇むクラレットがいた。

「ケイト」

「寒くなかったの? 大丈夫?」

「肩や腕がむき出しになっているドレスじゃないんだもの、平気よ。タキシードっていろいろ着込むから意外と暑いのよ」

「そう……」

 いつも通りの口調だけど、いつもより覇気がない。

 どう切り出したものか考えあぐねていると、クラレットはふっ、と笑って上体を起こした。

「ひとりにしてくれてありがと。気が済んだし、もう大丈夫よ。あなたをひとりにしておくわけにはいかないし、そろそろ戻るわ」

 クラレットの差し出してくれる手を取る。夜の闇にぼんやり光る、クラレットの夜明け色のタキシード。このまま、月の光に溶けてしまいそうに見えた。

「大丈夫なんかじゃないくせに……」

「え?」

 クラレットと腕をからめたまま、私はずんずんと歩きはじめた。

「な、何よ。怒ってるの?」

 その言葉には答えず、ひたすら足を進める。

「ちょっと。ホールはそっちじゃないわよ、そっちはお屋敷の人のプライベートスペースで……」

 喧噪を抜けて静かな廊下に出ると、クラレットが焦りはじめた。

「ほらっ、黒服がいるじゃない。怒られるから早く出ないと!」

 廊下を巡回していた黒服は、クラレットを引きずるようにエスコートしている私を見て一瞬ぎょっとした顔になったが、すぐにビジネスライクな微笑みを浮かべた。

「スティルハートさまですね。御所望ごしょもうのお部屋はつきあたりを左になっております。いい夜を」

 一礼して去っていく黒服を見つめて、クラレットがぽかんとした顔をしていた。

「なに、今の。どういうこと?」

「いいから、ついてきて」

 おとなしくなったクラレットを引っ張って、指定された部屋に入る。