「あなた、顧客さま一人にかける時間が長すぎない?」

 腕を組んだ店長が、切れ長の目をさらに細くして私を見つめる。

 これはきっと怒られるな、と思った予感は的中した。そもそも褒められたこともないのだから、予感も何もないのだが。

「すみません……。でも、有栖川さまは毎回たくさん購入してくれますし、セットを組もう思うとどうしてもロングの接客になってしまいます」

「ロングになることはいいのよ。かけた時間のぶん購入してもらえれば問題ないんだし。私が言っているのは、接客と関係ない雑談が多くないかってことよ。あなたが顧客さまにつきっきりになっている間、他のお客さまやレジをスタッフ一人で回さなきゃいけないのよ? せめて他のスタッフと連携を取って、雰囲気が悪くならないよう気を付けてちょうだい」

 一応、接客中も周りは気にしているつもりだ。今日は平日だったし、他のスタッフだけでもじゅうぶん手が足りていそうだったから中断しなかった。けれど、今ここでそれを言っても無意味だろう。

「それは……すみません。でも……」

「でも、何?」

「有栖川さまは、私の丁寧な接客が好きだと言って通ってきてくれています。雑談が多くなってしまうのも、気を許してくれるようになったからで……」

 そっけない接客をして、有栖川さまと疎遠になってしまうのは嫌だった。もちろんお得意さまだからというのもあるけれど、私自身が有栖川さまと仲良くなりたいと思っているからだった。

 私の言葉を聞いて、店長は嘲笑を浮かべた。ふん、と吐いた息が澱んだバックヤードの空気を揺らす。