「どうしたのよ、ケイト」

「いやあの、失われた純粋さについて考えてしました……」

「何言っているのよ」

 あまりにもどんよりした空気を出していたのだろう、クラレットに心配されてしまった。エリザベスさまはそんな私たちに気付かず嬉しそうに報告を続ける。

「それでね。お世話になったことだし、仕立て屋スティルハートの皆さんもご招待したいの。クラレットやケイトだけでなく、もちろんアッシュさんとセピアさんもよ。お父さまと婚約者に相談したら、ふたりもぜひご挨拶したいって」

「えっ、晩餐会にですか?」

 クラレットが驚いた声をあげたので、私もそちらを見てしまう。

 この世界の晩餐会とはどんなものなのだろう。名前のとおり食事するだけということはあるまい。きらびやかなホールで貴族たちがワルツを踊ったり、オーケストラの生演奏があったりするのだろうか。

 乏しい想像力をフル稼働させる私をよそに、クラレットは難しい顔をしていた。

「それはすごく光栄ですが……。爵位の高い方の晩餐会ですと、私たちは場違いになってしまいそうです」

「それがね、大丈夫なの。婚約者の大学時代のお友達もたくさん呼ぶことになっているのだけど、お医者さまや弁護士さまや……貴族でない方も多いのよ」

「なるほど、それなら大丈夫かもしれませんね。アッシュに相談してから改めてお返事したいと思います」

「ええ、私もちゃんと正式な招待状をお送りするわね」

 試着したドレスを召し替えたあと、『明るい湖畔』の入った大きな箱をメイドに持たせて、エリザベスさまは弾むような足取りで帰っていった。

「晩餐会ってごちそうが出るのかな」

 つい、ぽつりと口に出してしまう。クラレットは蔑むような目で私を見ていた。