「やっぱり、駄目っ!」

 がばっと飛び起きると、ベッドの上だった。昨夜案内してもらった二階の住居。ベッドと鏡台が置いてあるだけの、簡素な寝室である。

「ゆ、夢……?」

 あんないやらしい夢を見るなんて。実際にはキスすら寸止めだったとはいえ、アッシュもセピアも、自分ですら半裸だった。

「もしかして欲求不満……?」

 自分の願望が見せた夢だったとしたら、恥ずかしすぎる。今日はふたりとどうやって顔を合わせたらいいのか。しかも、セピアはともかく、アッシュにあんなことをされても嫌じゃなかった。

 これは由々しき事態だ。いかに好みの美形だったとしても、簡単に唇を許す女になってはいけない。ここが異世界であったとしても、だ。実際にアッシュがあんなことをしてくるとは思わないが。

 カーテンを開けると、朝の光が部屋に射し込んできた。目覚まし時計がないと言われたときには、どうやって起きるのか困ってしまったが、朝陽とともに自然に起きられたみたいだ。携帯もパソコンも、テレビもない生活なのがいいのだろうか。灯りがあたたかみのあるランプだからだろうか。暗くなったら眠って、明るくなったら起きる。そんな人間として当たり前のリズムを、この世界に来てはじめて実感する。

 身体が持っている本能に従うと、こんなに楽なんだな。

 ショッピングモールの閉店まで仕事をしていると、帰るのも遅くなってしまい、睡眠時間も一般的な会社員とはずれてしまっていた。こんなに早起きしたのは久しぶりかもしれない。

 二階にはキッチンや作業室、バスルームもちゃんとあった。お湯をわかしてお風呂に入ってから、簡単な朝食を作ろうと決めた。