「ちょ、ちょっとアッシュさんまで!」

 またしても、半裸だった。ボタンが全開のシャツ、首にひっかけただけの蝶ネクタイ。いつもきっちりフロックコートを着こなしているアッシュだけに、その破壊力はすさまじかった。はだけた胸元が筋肉質だったのは意外な発見だが。……いや、そうじゃなくて!

「なんだ」

「なんでそんな恰好なんですか!」

「君もじゃないか」

「え」

 言われてはじめて、自分の身体を見下ろす。丈の短い、やたらシースルーなキャミソールを一枚着ているだけだった。

「う、嘘っ。なんでっ」

「恥ずかしがることはない。人間、服を脱げばみな裸なのだから」

「それは、そうですけど……。って、だまされませんよ!」

 一瞬納得しかけてしまったのが悔しい。アッシュは熱のこもった目で私を見つめてくる。じりじりと距離をつめてくるので、なんだか怖くなって後ずさる。が、足が何かに当たって進めなくなる。

――壁だった。さっきまでこんなところに壁なんかなかったのに。

「ケイト」

 アッシュが、両手を壁について私の逃げ道をふさぐ。彫刻のような美しい顔が目の前にあって、狭い視界のすべてをアッシュに奪われる。

「他のやつに捕まるな。君は俺の獲物だ」

 つめたい手で、やさしく頬に触れられる。なぜだろう、その手を振り払えなかった。アッシュが痛々しいほどに必死な表情をしていたからだろうか。


 アッシュの顔がだんだんと近付いてくる。このままじゃ――。