* * *

 甘い匂いがする。

 頭がぼうっとして意識がはっきりしなくて、花の蜜に誘われる蝶々のように甘い匂いを辿っていく。

 ピンク色のもやがかかった視界の中、芳香がいっそう濃くなってむせ返りそうになっていると……。

「どうしたの? ケイト」

 セピアの声が後ろから響いた。

「セピアくん。良かった、道に迷っていたところで……っ!?」

 振り向くと、ほぼ半裸のセピアがいた。バスローブのようなものを着てはいるが、はだけているので胸板も太腿も露わになっている。

「な、なんでそんな恰好……!」

「そんなの、ケイトを誘惑するために決まってるじゃん」

「ちょっと待っ」

 力がなさそうと思っていたのに、簡単に押し倒されてしまった。地面がふわふわしていて寝転がっても痛くない。

「寂しいんだよね。大丈夫、僕に任せてくれればすぐに忘れさせてあげるよ」

 セピアが上に覆いかぶさってくる。はねのけようと思ったのに、腕も脚も、器用に拘束されてしまって動けない。

 火照ったようなセピアの顔がだんだんと近付いてくる。

「やめて、待って。心の準備がっ……」

「セピア、何をしているんだ」

 アッシュの声が高いところから降ってきて、セピアの身体がべりっと引きはがされる。

「ちょっと、邪魔しないでよ」

「これは俺の獲物だ」

 なんだか物騒な台詞が聞こえた気がする。

 アッシュがセピアをとん、と押すと、セピアの姿はもやに紛れて消えてしまった。身体を起こそうとする私に手を差し伸べてくれる――が。