「番犬のかわりでも何でもやります。家賃はどうしたらいいですか?」

「二階の掃除と、早朝の店の掃除。それでいいだろ、クラレット」

「え、それだけでいいんですか?」

 驚いた声で聞き返し、クラレットとアッシュを交互に見つめる。住居費が無料だなんて、この上なくありがたい。

「どうせほとんど使っていない部屋だったし、家賃を取りたてるのもねえ。あなたに雑用をやってもらったほうが助かりそう。セピアのかわりにお茶を淹れるとか」

「もちろん。おいしい淹れ方を研究しておくね」

「ケイトって、家事は得意なの?」

 セピアが、さりげなく腰に手を回しながら訊いてくる。

「大学時代から一人暮らしだったから、それなりには」

「へえ。今度むこうの料理作ってよ。食べてみたかったんだよね」

「うん、機会があれば」

 密着してくるセピアを避け、奪ったトレイを持って店の奥に消えてしまったアッシュを追う。

「ありがとうござます、アッシュさん。助かります」

 お礼を言うと、アッシュは一瞥しただけでぷいっと目を逸らしてしまった。

 この人の冷たい態度にも慣れてきたかもしれない。優しいのに裏が読めないウォルよりも、冷たいけれど親切さを隠せていないアッシュのほうが可愛げがあるとさえ思ってしまう。

 自分が器用なタイプではないからだろうか、相手にも不器用さが見えると安心する。そういえば、今まで付き合った彼氏もそうだった。

 ――何を、考えているんだろう。

 一瞬頭の中によぎった可能性を必死で否定する。いくら好ましいと思ったって、一年でお別れしてしまう人たちだ。恋になることなんて、ない。絶対に。