空気を変えるように、クラレットがぱん、と手を叩いた。

「とりあえず自己紹介しましょ。お互い年齢もフルネームも知らないでしょ」

「そういえばそうだね。じゃあ、ケイトからよろしく」

「桜井恵都です。えっと、二十三歳です。もとの世界では服屋の売り子のような仕事をしていました。新卒なので、まだ半年くらいですけど」

「あらやだ、同い年なの?」

 クラレットが大げさに顔をしかめた。

「あ、そうなんですか?」

「ちんちくりんだし、顔ものっぺりしているし、絶対年下だと思ったのに」

「それはですね、民族全体がそういう感じなので、私のせいじゃないです……」

 がっくりと、肩の力が抜ける。私だって日本人の中でははっきりした顔立ちだったし、大人っぽく見られることのほうが多かった。外国人からは幼く見られるという噂は本当だったようだ。

「敬語はやめてちょうだい、同い年なんだし。クラレット・スティルハートよ。さっきも説明したけれど、布やアクセサリーの仕入れをしたり、お客さまの相手をするのが私の仕事ね」

「うん。クラレット、これからよろしくね」

「じゃあ、次は僕だね。セピア・スティルハート、十九歳だよ。パタンナーって言って、デザインから型紙を起こすのが主な仕事かな。アッシュの手が足りないときにはお針子もするけれど」

「よろしく、セピアくん」

「僕も、ケイトは自分より年下だと思ってたよ。年上のほうが好みだから、ちょうどよかったけど」

 セピアの口調は可愛らしいのに、言っていることは肉食獣みたいだから混乱してしまう。

「そ、そうなんだ。ところでセピアくん、何か香水つけてる? 甘い匂いの……」

「ううん、何もつけてないよ。何か匂った?」

「さっきちょっとだけ甘い匂いがしたの。今は平気だよ」

「ふうん。じゃあ、バニラエッセンスかブランデーかもね。お菓子を焼いていたから」

 出してくれた焼き菓子はセピアが作ったらしい。シャル型のマドレーヌは形も焼き色もきれいで、手先の器用な人はお菓子作りもうまいんだなと感心する。さっきのは、バニラエッセンスの匂いが服に染み込んでいたのかもしれない。くらくらしたのはブランデーのせいだろう。