「とりあえず、当面のことを相談しましょ。お給料のこととか」

「そうだな。とりあえず座るか」

「ケイトもおいでよ。紅茶のおかわり淹れてあげる」

 お店の奥に消えていったセピアと、ぶつぶつ言いながらソファに移動するクラレット、その後ろをついていくアッシュ。

 ここで目が覚めてからずっと、アッシュにはお世話になってばかりだ。私がこの世界ではじめて出会った人。はじめて親切にしてくれた人。確かに冷たい言葉は投げかけられたが、アッシュがいなかったら今頃、路頭に迷っていたかもしれないのだ。

「――あの、アッシュさん」

 こそっと、アッシュの袖を引く。

「今日は二回も助けてくださって、ありがとうございました」

 笑顔でお礼を言うと、アッシュは一瞬硬直したあと、彫刻のような顔を憎々しげに歪ませた。

「俺に気安く触るな」

「え、だってさっきはそっちから」

 言い返したところで、頭がぼうっとしてくる。セピアから漂ってきた甘い匂いを、アッシュからも一瞬だけ感じた気がしたのだが、気のせいだろうか。

「女から触るのとでは意味が違う。いいから早く離れろ」

 離れろと言っておきながら、アッシュは自分からさっさと遠ざかってしまう。ものすごくスタイリッシュな早足だ。

 何もしなくても助けてくれるのに、歩みよったと思うと突き放される。親切なのか、怖い人なのか。まだ判断がつかなかったけれど、この人をもっと知りたいと思っている自分がいた。


 セピアが淹れてくれた紅茶のおかわりを飲みながら、今日一日のことを思い返す。

 あれやこれやと相談している美形三兄弟を眺めていると、ああとんでもないところに来てしまった――と、今更ながらに実感がわいてきたのだった。