「……うーん、駄目ねえ」

 セピアとお茶を飲んでいると、クラレットとエリザベスさまの会話が耳に入ってきた。

「いつもピンク系ばかりになってしまうから、今回は水色にしようと思ったんだけれど……。やっぱり、顔色が悪く見えるような気がするわ」

「そうですか? 私はお似合いだと思いましたけど……」

 姿見の前で布見本を合わせていたエリザベスさまが、首を横に振った。

「やっぱり、いつものようにピンクにしようかしら。でもお父さまが、同じようなドレスばかり作って、って怒るかもしれないし……」

 クラレットがいろいろ提案しているけれど、なかなか決まらないようだ。ふたりとも表情が少し曇ってきている。

 ああ、違う。その色じゃなくて、別の色。目の前に似合う色があるのに、お客様もクラレットも気付いていない。

 ――もったいない。

 気付いたときには、勝手に身体が動いていた。セピアの驚く声が聞こえた気がしたけれど、動き出した足は止められなかった。

「あのう、ちょっとすみません」

 急にうしろから声をかけた私に、クラレットはぎょっとしていた。

「あんたちょっと。おとなしく待っててって言ったじゃ――」

「すみません。でもちょっとだけいいですか」

 クラレットの横をすり抜け、きょとんとした顔で見つめてくるエリザベスさまに微笑む。瑞々しく、可愛らしい印象の人だ。そう、春の花を思わせるような。

「エリザベスさまは髪と目の色が明るい茶色ですし、肌もきれいなベージュです。少し黄みがかった明るい水色を合わせてみてください。例えば……これとか」

 サイドテーブルに積んであった布見本を手に取って、エリザベスさまに合わせる。

 ちょうど資格を取るために、パーソナルカラーの勉強をしていたところだった。まさかこんな形で役立つなんて思っていなかったけれど。