ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 そして、最後の数か月が過ぎ、季節は初秋を迎える。

 私が転送魔法で、もとの世界に帰る日がやって来た。

 カーテンを閉め切って暗くしたお城の大広間に、蝋燭が何本も宙に浮いている。

 フード付きのローブを着た人たちが円を描くように並び、呪文のような言葉をぶつぶつつぶやいていた。

 なんだか物々しい雰囲気だが、転送魔法のための準備だそうだ。

「エルフたちが集中できるよう静かにしているように」と黒服に言われたので、私は無言でその様子を見守っていた。隣には、黙って肩を抱いてくれているアッシュ。

 少し離れた場所には、クラレットとセピア、有栖川さま、ローズにエリザベスさまなど、この世界で知り合った人たちも見送りに来てくれていた。

 ウォルは、役人さんたちと一緒に儀式を仕切ってくれている。

 一年間ためたお給料は、今日の朝役場に届けてきた。役人さんからは「しっかり受け取りましたよ。ケイトさん、向こうに戻ってもお元気で。この世界で一年頑張れたあなたなら、なんでもできるはずです」という激励をいただいた。

 エリザベスさまは「ケイトがいなくなるなんてさびしい。もうドレスを見立ててもらえないのね」と泣いてくれたし、ローズは「せっかく友達になったのに」と半分怒っていた。アッシュとのこと、召喚魔法でこちらの世界に戻って来れることを告げたら、「それを早く言いなさいよ」と言いつつふたりとも喜んでくれたが。

 ひときわ大きな声でエルフが呪文を唱えると、床にぶおん、と魔法陣が浮かび上がった。「すごい、魔法みたい!」とはしゃぎそうになったけれど、正真正銘の魔法なんだっけ。

「用意ができました。異世界人、魔法陣の上に乗りなさい」

 フードで顔を隠したエルフが、男なのか女なのかわからない不思議な声で告げる。