ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 そのあと有栖川さまは、旦那さんとの馴れ初めを教えてくれた。

 アッシュにそっくりの堅物の生真面目で、淫魔の力を使って誘惑してもまったくなびかなかったこと。そんな人間は初めてだったから、つきまとっているうちに自分が好きになってしまったこと。

 人間の姿になって、淫魔の力を使わずにアプローチして、やっとのことで結婚してもらえたこと。そんな素敵なラブストーリーを。

 ふたりでお店を大きくしたことや、息子や孫が生まれたときのこと。

 そして、大好きだった人が亡くなってから、徐々に魔力がなくなり、肉体の維持ができなくなってしまったことも話してくれた。

 孫たちには内緒だけど、旦那さまとの思い出がつまったこの世界にいるのがつらくて、異世界に飛んだことも。

「そんなときに桜井さんに出会って、私はとても救われたのよ。あの世界の人たちはいい人だけど、本音と建前の使い分けがうますぎて、どうもなじめなくてねえ。桜井さんは私に似ていたし、裏表がない人だから信頼できるって思ったの。あの店のお洋服も好みだったしね」

 と言ってくれた。

「ためしに孫の話をしてみたらまんざらでもなさそうだったから、つい先走ってこの世界へのゲートを開いてしまったの。あなたの気持ちも聞かないで勝手なことをして、ごめんなさいね」

 申し訳なさそうな顔で謝られたけれど、私はこの一年のことを逆に有栖川さまに話して聞かせた。たくさんのお客さまに喜んでもらえたこと。仕事や恋の楽しさを思い出せたこと。この一年があったから、今の私があること。家族としてこれからもよろしくお願いしますということも。

 有栖川さまはにっこり笑って「もちろん」と握手をしてくれた。