ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「え!? 異世界トリップしたのが非常階段だったのって、まさか」

「ケイトをこの世界に飛ばしたのは、おばあさまだったのか?」

「な、なんでそんなこと」

 みんなは混乱していたが、私にはその理由がなんとなくわかってしまった。あの日、接客の最後にした会話が思い起こされる。

「桜井さんがアッシュのお嫁さんになってくれたらいいな、って思って。私がいろいろお膳立てするつもりだったんだけど、その必要もなかったみたいね?」

 寄り添う私とアッシュの距離感を測って、有栖川さまがにっこりと微笑む。

「もしかして、有栖川さまがおっしゃっていた『女っ気がない息子』ってアッシュさんのことだったんですか?」

「おばあさま……。またそんなしょうもない見栄を……」

「だって、孫がいるなんて言ったら、すごく年寄りに見えてしまうじゃない! それくらいのお茶目心は許して欲しいわ」

 有栖川さまが、唇をとがらせた。そんな可愛げのある拗ねかたができるのがうらやましい。

「お茶目ですむ話じゃない。ケイトがどれだけ大変な思いをしたと思っているんだ。おばあさまの身勝手な策略に付き合わされて、家族とも離れて異世界でひとりきりで……。その気持ちを考えたことがあるのか」

 わざと冷たい態度を取っているときとは違う、本気で怒っているアッシュの声。

 初めて見るアッシュのそんな姿に、私たちは全員言葉を失ってしまった。

 ショックを受けた顔でうつむく有栖川さまと、口を開いていいものか迷っているセピアとクラレット。

「もう、いいですよ。アッシュさん」

 私のために怒ってくれたアッシュの手を、そっと握った。

「私、この世界に来れて、本当に良かったと思ってるんです。仕事に対する大切な気持ちも思い出せたし、一生の友人もできたし、それに何より、アッシュさんを好きになれた。だから有栖川さまには、感謝しています」

 心からの気持ちで、そう告げた。『一生の友人』のところでは、クラレットとセピアを見つめながら。